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退職金って必要なの?
ある会社で就業規則の説明会を行った時でした。
その会社は元々退職金が無いのですが、就業規則を新規に作成した際にそのことを明記し、説明をしたところ、初めて知ったという従業員がほとんどでした。
また、以前監督署の相談員をしていた頃、良く、「退職金が貰えない」と言った苦情が有り、その都度会社の規程を確認するのですが、その殆どは規程など無かったのです。
基本的には規程が無ければ、退職金など無い旨を説明すると、「前に辞めた人は貰っていた」と言う人も有れば、諦める人もいました。
事実、退職金は法的に絶対必要なものではなく、その会社の制度として存在するかしないかなのですが、一般的には、有って当然のように思われているようです。
しかし、規程が無くても、慣例として過去のほとんどの人に退職金を支払っていたとすれば、ある特定の人にだけ支払わないというのは許されなくなりますので注意してください。
以下の様な根拠に該当するでしょうか?
1.賃金の後払い
在職中の賃金は実際の仕事量より低いので、在職年数に応じて後から支給される賃金の後払い目的
2.長期雇用維持のため
技術職など、当社で教えた技術の流出を防ぎ、また、長年いることのメリットとして、長期雇用を促す目的
3.人材確保のため
長期雇用は考えていないが、少しでも良い人材を確保し、他社と差別化を図る目的
4.福利厚生
退職後、次のステップに行くための資金としたり、老後の生活を安定させる、福利目的
5.他人の真似事
退職金は有るのが当たり前、特に目的などは無いが他社の制度を真似しているだけ。
以上のように考えると、何も全従業員に一律でなければならいのもおかしな話しで、場合によっては、職種毎に退職金の有無が存在しても良いのでは無いかと思います。
例えば、技術者を配置する部署では、長期雇用のための制度、管理職には優秀な人材確保のため、一般事務職では退職金無し、或いは5年以後は金額据え置きなど。
また、新卒を採用した場合など、その職種で一人前になるのに何年掛かり、その後何年勤務してくれれば良いのか。など、単に勤続年数が増えれば自然と退職金が増える時代は終わりを告げているのです。
退職金倒産が増加?
団塊の世代が定年退職する2007年から退職ラッシュが始まるとされています。
定年延長や再雇用制度などにより、一括退職を延命することも多少は可能ですが、退職金の支払いにより倒産する会社の急増が懸念されています。
現に、ある会社では、15人足らずの従業員がいっぺんに辞めると、その支払総額が10億円を超えるという恐ろしい試算結果も有りました。
その背景には、従来は比較的勤続年数の短い従業員の自己都合退職が多く、かつ同年代の社員数もそれほど多くは無かったため、勤続年数の長い従業員の定年退職者数は少なかったので、退職金が企業の経営に与える影響は比較的小さかったのです。
しかし、今後は勤続年数の長い、団塊世代の従業員の定年退職が増加するため、退職金支払額が急増し、企業の資金繰りを圧迫することは必至です。
この退職金問題を認識している経営者はまだ少なく、経営者の危機感は希薄だといわれています。
何がいけないのか?
退職金問題としては、「積立金の不足」と「規程の不備」が良く言われます。
まず、「積立金の不足」ですが、規程で約束している退職金を支払うため、通常はどこかに積立をしているのですが、その積立額だけではなく、それを原資に運用し、将来の利息を期待して退職金の額を決めている企業に起こりえる現象です。
特に、生命保険会社がバブルの頃に勧めた、適格年金は、当初年5.5%の利回りを予定していましたが、現在はいかがでしょうか?この利回りを下回っている分、積立不足となり、従業員が退職する際に不足分を一括して支払わなくてはならなくなる事があるのです。
また、適格年金は、平成24年にその廃止が決定しているため、運用先の変更を余儀なく求められているにも拘わらず、まだ、時間があると思っている事業主も多いようです。
もう一つの問題点として「退職金規程の不備」が挙げられます。
これは、一度作成した退職金規程を見直すことなく、旧態依然の「基本給×勤続年数×支給率」といった、基本給連動型を運用し続けていること。
そうして、規程の見直しは不利益変更になることが多いため、そう簡単には行えないことがその原因とされています。
特に基本給は、バブル依然と以後ではかなりの違いがあるはずです。にも関わらず、バブルが弾けた現在、当時の規程のままでは会社がパンクするのは目に見えているのでは無いでしょうか?
簡単に出来ない規程変更
すぐにでも退職金規程を変更しなければならないのですが、実は簡単には出来ないのです。
まず、注意しなければならないのが、既得権の問題。
退職金規程を変更しても、変更までの部分は、従業員の既得権として認められ、変更日以後から新規定が適用されるところです。
既得権とは、変更日までは旧規定により計算した退職金が保障されるということです。
つまり、仮に現在の規程では「基本給×勤続年数」となっていたとしましょう。
その規程をポイント制に変更した場合、変更日前までの勤続分については、基本給×勤続年数で計算をして、変更日に退職したと仮定して一度計算します。
その後の分については新規定で運用を行うので、実際の退職時点では、旧規定での計算分と新規定での計算分を足して支給することとなります。
そして、何より大事なことは、 現規程で約束している退職金額を引き下げることは、労働条件の不利益変更に該当することになるのです。
つまり、従業員の個別同意が必要です。
将来の労働トラブルを回避するには、会社の財務状態、退職金改定の内容を従業員に十分に説明して個々の従業員の同意を得ることが重要です。
これを怠ると裁判になることも十分考えられ、裁判になると大抵は労働者が有利に成り得るのです。
ですから、退職金制度改革には、適格年金や中小企業退職金共済制度などについての専門的な知識が必要であり、積立金の状況等の現状分析から改革プランの作成まで専門家のノウハウの有無が退職金問題解決の早道に繋がるのです。
この問題は先送りすればするほど、将来の支払額に大きく影響を及ぼすこととなるので、少しでも早い対応をお勧めいたします。